« 食前の‘合掌’の考察 | トップページ | 「いただきます」の考察・・後編 »

2012年9月25日 (火)

「いただきます」の考察・・前篇

昨日に次いで、食前のことについて考察してみます。きょうは「いただきます」という食前の言葉についてです。

「いただきます」の語源や由来を読むとこうあります。

山や頭の一番たかいところを「頂」と言うように、本来「いただく」」とは頭上に載せる、または頭上と同じ高さにする意味。

それが中世以降、身分や位が自分より上位の者から物をもらう際に、敬意を意味して頭上に載せるようなお礼の仕方をしたことから、「貰う」という意味の謙譲的用法が加味され、
さらに神仏の供え物を飲食する際にも同じ動作をしたことから、飲食をする意味の謙譲的用法になり、それがさらに一般化して広まり食前の言葉に使われるようになった。

ざっとこのような説明になるようです。

つまり「いただきます」は、元々は食前の挨拶言葉としては使われていなかったことになります。
では、いつごろから日本人が一般的に「いただきます」という言葉を使いだしたかと言うと、そのことについて面白い事実が有ります。

日本で最初の国語辞典になる書物に「広辞苑」があります。日本語の辞書というより、日本言葉文化の事典と言った方が適切でしょう。
なぜなら、ここには「日本人なら誰でも知っていて、すでに一般化した言葉」と認められると新しい言葉でも、記載されてくるからです。

初版本は大正時代初期ごろから制作が開始され昭和10年(1935)に博文社から広辞苑の前身である「辞苑」が創刊されました。
 それから太平洋戦争を挟んだ20年後の昭和30年(1955)に岩波書店から「広辞苑」の初版本が創刊されます。

そしてその後は・・昭和44年(1969)第2版、昭和51年(1976)第2版補訂版、昭和58年(1983)第3版、平成3年(1991)第4版、平成10年第5版、平成20年第6版・・と、新しい言葉が追加されたりしながらほぼ7年くらいの間隔で改訂がなされてきているようです。

さてここで本題です。この広辞苑に食前の挨拶言葉として「いただきます」が登場したのはどこだと思いますか?

たぶん、すでに「広辞苑」の前身である「辞苑」には記載されているはずだと考えた方がほとんどでしょうが、それは大間違いです。

「辞苑」には「ごちそうさま」という言葉は食後の挨拶言葉としてすでに登場していますが、「いただきます」は無いのです。

なんと「いただきます」の言葉が食前言葉として登場するのは昭和58年に出された「第3版」なのです。
つまり、「いただきます」の言葉が食前挨拶言葉と言う意味で「一般的な日本語」と認められくらい一般化したのは少なくなくともそこから10年以上前となり、多くの人々が言うようになったのはさらに前のころということですから、急激に一般化したのは昭和40年ごろと推察されます。

その時期はオリンピックの開催が決まり、一般家庭にテレビが急激に増えだした時期と重なる気がしますね。

実を言うと、私は食事を始めるときに「いただきます」ということと、そういう言葉が有ることを小学校に入学して初めて知ったのです。

そのせいでしょうか、今でも「‘いただきます’は学校だけの言葉」という考えが残っています。ただし「ごちそうさま」は違います。

私たちが他人の家に行ったりした時に言う言葉として慣れ親しんできた食前食後の挨拶は食前が「ごっつぉになりやす」、食後が「ごっつぉさまです。

標準語に直せば「ご馳走になります」「ご馳走様」になります。これなら、始めと終わりの言葉が一対になっていますし、しっくりくると思います。

時代劇で武士が食事を御馳走になるときにも同じように言いますよね

<武士の言葉>
 食前=「馳走になる」、「馳走になり申す」、
 食後=「馳走になった」、「馳走になり申した」

 自宅の場合は、会釈のみで無言が多い

こう考えると、食前の合掌と同じように「いただきます」の言葉づかいも同じところからの発祥なのかもしれません。

>その2へ続く

|

« 食前の‘合掌’の考察 | トップページ | 「いただきます」の考察・・後編 »

コメント

へ~びっくりですね。
「いただきます」は新しい言葉だったとは。

投稿: もうぞう | 2012年9月25日 (火) 19:39

もうぞうさんへ

食前言葉としては新しいのだと思いますね。使っていたところは有るんだと思います

投稿: 玉井人ひろた | 2012年9月25日 (火) 19:56

お早う御座います。食前・食後の挨拶について、こんなに興味深く思った事は有りませんでした。当地でも高齢者の人の一部では「ごっつぉになります」「ごっつぉになりました」を使うのを聞いたことが有ります。親しい間柄では「ごっつぉになろーか」「ごっつぉになったねー」などと使い「ごっつぉ屋」とかイタリアンレストランで「Gozzo Latte(ゴッツォ・ラーテ)」などと店名まで有ります。

投稿: えちごのじご | 2012年9月26日 (水) 08:15

えちごのじごさんへ

かなり前から、考えてきたことなので話しが長くなるため3日に分けました。

そちらでもそうなんですね。昔はあまり言葉を発せず、合掌かお辞儀だけで終始したことが多かったようです。
ただ御呼ばれや招待の席では言葉が、その家主に対しての礼として存在したようです。

昔言われましたよね。「食事は静かにしろ、黙って速く食っちまえ」て、言われませんでしたか?

投稿: 玉井人ひろた | 2012年9月26日 (水) 08:43

お早う御座います。「食事は静かに・・・」は確かに小さい時に在りましたね、家族・兄弟が多かったせいも有るでしょうが賑やかだった記憶が有ります。そのせいか度が過ぎると父親の鉄拳制裁が待っていました(笑)。今は、真逆で食事の時のコミニケーションが大切の風潮ですが。いつもながらの記事に感心しきりです。

投稿: えちごのじご | 2012年9月27日 (木) 08:00

えちごのじごさんへ

絵画もそうですが、文章・言葉と言うのは読む人や受け手によって解釈が変わります。
世の風潮によっても、解釈が変わってきます。どれが正しいというのは無いのかもしれません

投稿: 玉井人ひろた | 2012年9月27日 (木) 08:54

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 「いただきます」の考察・・前篇:

« 食前の‘合掌’の考察 | トップページ | 「いただきます」の考察・・後編 »