“髭をあたる”・・の‘あたる’とは何?
現在はほとんど耳にしなくなった言葉で「髭を剃る」または「・・を剃る」ことを「髭をあたる」という言い回しが有ります。
私の地域では元々使わないことばですが、東京・江戸を舞台にしたテレビのドラマや時代劇の中では「ちょいと髭をあたってくれ」とか「月代(さかやき)をあたってくれ」などと年配者や江戸ッ子がよく言う言葉です。
「なぜ、剃る(そる)と言わないのか?」考えたら、変わったというか・・おかしな言い回しですよね
これは「忌み言葉(いみことば)」というもので、「縁起が悪く聞こえる言葉を縁起良い言葉にして使う」という日本語独特の言葉だそうで、特に江戸の町で発生した、いわば「江戸ッ子言葉=江戸弁(江戸方言)」になるようです。
だから、時代劇や少し古い東京を舞台にしたときによく耳にするんだと思います
つまりここで言う「髭を剃る」は、江戸っ子弁(江戸訛り)だと「しげ(髭)をする(剃る)」となりまして、博打で金を使いきってしまうことの「掛け金をする」と同じ言葉になり縁起が悪い。
そこで「(博打の)掛けが当たる」を引用して「髭を当たる」と言い換えたものなのです。
面白いことを昔の日本人は考えるものです。それだけ「縁起担ぎ」が盛んだったことが分かりますね。
その他の「忌み言葉」も沢山ありますので少し紹介してみましょう。面白いですよ()
- あたりめ⇒「するめ」のこと、「髭を当たる」と同じ理由で「する・」を「当たり」に変えた
- あたり鉢⇒「擂り鉢(すりばち)」のこと、上記と同じ理由で「当たり」に変えた
- 有りの実⇒「梨(なし)」のこと、「梨」=「無し」で縁起悪いので変えた
- 鏡開き⇒「鏡餅を割る」こと、「割る」が縁起が悪いとして「お開き」に変えた
- 亡くなる・身まかる⇒「死ぬ」のこ、「死」の言葉を避けるため変えた
- キネマ⇒「シネマ」のこと、「死ねま」に聞こえるから変えた
- お造り⇒「刺身・切り身」のこと、「刺す・切り」が縁起悪いので変えた
- エテ公⇒「猿」のこと、猿=「去る」に聞こえ良く無いので「得手(えて)」に変えた
- よ し(葦)⇒「葦(あし)」のこと、「あし」=「悪し」に聞こえるから変えたもの
- お手洗⇒「便所」のこと、直接汚れをイメージさせないように変えたもの
- 東京の亀有⇒昔の地名は「亀梨(かめなし)」だったそうだが、江戸ッ子が「無しは縁起が悪い」として「亀有り」と呼んでいたため「亀有」と変更された名前
どうですか?こうしてみると身の回りでも気がつかないうちに“忌み言葉”を使っているのが分かりますよね。
日本人の言葉の「奥ゆかしさ」「心配り」「粋な考え」がよく判りますよね。
でも、「回りくどい」としてどんどん少なくなっていることも事実ですね
ちょっと話的には逆になりますが、私の地域では「普通じゃない」「常識じゃない」「あたりまえじゃない」ことを「あたりめ(あたりまえ)」をもじって「左(ひだり)め」という言い方をよくしますよ。これは「逆忌み言葉」でしょうかね()
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コメント
いやはやまたまた勉強になりました。
キネマは英語以外の例えばフランス語などから来ているのかと思っていました。
いつもながら博学ですね~
投稿: もうぞう | 2009年11月17日 19:24
)もうぞうさん
これは面白いですよね。
でも元の言葉が消えた例もあって、それでは忌み言葉じゃなくなったことになりますよね
投稿: 玉井人ひろた | 2009年11月17日 19:52
キネマ⇒「シネマ」のこと、「死ねま」に聞こえるからですって???へ・え・え・・・・面白いことばかり。
投稿: 山口ももり | 2009年11月20日 08:07
)山口ももりさん
キネマは「キネマトグラフ」の略語ですが、うまく忌み言葉として利用したようですね
投稿: 玉井人ひろた | 2009年11月20日 08:20